2010年9月30日木曜日
道ありき―青春編(新潮文庫)
昭和21年の敗戦の混乱期。自ら情熱を持っていた教員生活に自信を喪失し、退職。どうしようもない虚無感から、「ヴァンプ」と噂される程の精神的堕落を覚え二重婚約をするまでに至る。さらに肺結核を患い、13年間の闘病生活が始まる。
釈迦は今まで自分が幸福だと思っていたものがすべて虚しくなり、山の中にはいった。そして聖書のはじまりも「混沌」であり、「世のすべては虚しい」と説いている。このことに目を止めた綾子は、幼なじみでクリスチャンであった前川正の深く清らかな愛情で、次第にキリスト信仰の道へ、迷い疑いつつ激しく葛藤しながら進んでゆく。
本書は虚無と絶望からはじまる「自分のこころの歴史」を赤裸々に、また緻密に描き出した著者の自伝小説である。
また、著者自身の信仰生活の道程が記されているとともに、青春期を通して多くの人々がぶつかる「真の愛とは何か」「人が人を愛するとはどのようなことか」を深く追求しつづけたその姿が記録されている。
「綾ちゃん、人間はね、一人一人に与えられた道があるんですよ」と前川正によって優しく語られる言葉が本書の主題であり、さまざまな困難や過酷な状況にあろうとも「神への全き信頼」を抱くまでに成長した綾子の姿が読者のこころを圧倒的に魅了する。
青春編とあるだけに、若い読者の「自らの道を求めている」魂に響く部分が多い。また青春期を過ぎた読者にとっても、著者とともに自分の青春期を振り返る作業ができる感慨深い作品となるに違いない。(青山浩子)
■ 著者紹介
三浦綾子(みうら・あやこ):1922年‐99年。旭川生れ。17歳で小学校教員となったが、敗戦後に退職。間もなく肺結核と脊椎カリエスを併発して13年間の闘病生活。病床でキリスト教に目覚め、1952年受洗。64年朝日新聞の一千万円懸賞小説に『氷点』が入選、以後、旭川を拠点に作家活動。98年旭川に三浦綾子記念文学館が開館。
■ 書籍概要
著者 | 三浦綾子 | |
価格 | 620円(税込) | |
出版社 | 新潮社 | |
発売日 | 1980年3月 | |
ページ | 381 | |
サイズ | 15 x 10.6 x 1.6 cm | |
ISBN-10 | 4101162026 | |
ISBN-13 | 978-4101162027 |
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